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-よみもの-

2024年度 特別賞

お弁当とふせん

 私の祖父はとても厳しい人でした。まだひらがなも書けない私に対して鼻をかむときはティッシュを四つ折りに、とか、コップが空いている人がいたら声をかける、とか、とても小さなことで私が泣くまで怒る人でした。幼い私からすれば年配は何が怒りの琴線に触れるのか分からなかったし、私は祖父に苦手意識を持っていました。
 そんな祖父へのイメージが変わったきっかけは、私が母のお弁当を作ったことでした。母は祖父と同じ会社で働いているため、私は祖父にも弁当を作りました。作ったのは、お弁当には向かない、ナポリタンでした。麺をゆでるのは危ないからと、私は自分の名前が彫刻された子供用の包丁でハムとピーマン、たまねぎ、人参を切りました。「チンしてたべてね」と当時お気に入りだったふせんに書き、弁当箱のフタにはりつけました。
 その日、母が帰ってくると、
 「おじいちゃん、華奈が作ってくれたナポリタンすごい喜んでたよ。自まんしてたよ。」と教えてくれました。私は祖父が私のお弁当を喜ぶ姿が全く想像できなかったので、母のいつものおふざけの発言かと思いました。しかし、母が見せてきた写真によって、その考えは否定されました。祖父の作業デスクに、私が書いたふせんが飾るような形で貼られていました。私は、どちらかと言うと文字を書くことを楽しむためだけに書いたふせんだったので、とても呆気にとられました。そして、とても嬉しい気持ちになりました。祖父は私のことが好きなんだ、と初めて知れた瞬間でした。今まで不満や恐怖心をいだいていた祖父の私への厳しい言動は、すべて不器用ながらに祖父が私のことを愛してくれた結果でした。
 それから私は、たまに祖父と母のお弁当を作るようになりました。母は朝が楽になると喜んでくれるし、祖父も喜んでくれていると思います。あの日のお弁当が、私と祖父をつないでくれたと、私は考えています。

INFORMATION

2024年度 特別賞
お弁当とふせん
斉藤 華奈(足立区立第十三中学校2年)

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