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-よみもの-

2024年度 特別賞

お弁当と新生活

 桜の舞う四月。私は中学受験を経てこの学校に入学した。夢見ていた学園生活。でも現実はそう甘くなかった。早い起床時間、待ってはくれない電車、ハイレベルの授業。何もかもが新鮮で驚きの連続だった。不安なことも逃げ出したいことも沢山あった。けれど、そんな私を一番身近で支えてくれたのはいつも母だった。母は私が起きるよりずっと前から毎日毎日お弁当を作ってくれていた。でも私はその思いに応えられなかった事がある。
 私は小学生の頃、不登校だった。学校に行くことが怖かった。中学生になった瞬間毎日行けるようになる訳ではなかった。どうしても行けない日があった。何度も何度も母の愛情を無下にしてしまった。私は、ただ自信が持てなかった。母に申し訳なさを感じる時があった。それでも、母は私のことを見捨てなかった。懸命に私の悩みに耳を傾け励ましてくれた。毎日笑顔で学校へ送り出してくれた。
 そんな母の力あってかこの間は約一年ぶりに一週間丸ごと通うことができた。世間的には普通のことかもしれないが、私からしてはとても大きな一歩だ。
 いつもパワフルな私の母だが一度体調を崩してしまったことがある。その日の夜ご飯は私が担当することになった。
 「一体何から始めたらいいんだ?」
 今まで片手で数えられる程しかキッチンに立ったことのない私は困ってしまった。しばらく考えた後、家庭科の課題になっていた豚肉の生姜焼きを作ることにした。調理実習の時と違い、全ての工程を一人で行わなければならない。野菜炒めと並行して作っていたら肉が数枚黒くこげてしまっていた。すこし焦ったが残りは上手く完成させることができた。弟と父からの評判は思っていた以上に良く、人のために頑張ることは素晴らしいと感じた。
 その時、ふと私は思った。あのお弁当、何時から作ってるんだろうか、と。少なくとも私が起きてくる時間にはもう終わっている。改めて後日、私は母に聞いてみた。返ってきた答えに私は愕然とした。母は私のために毎朝五時に起きていた。いつも真夜中まで私の数学の勉強に付き合わせているのに、だ。
 その日から母のお弁当はかけがえのないものになった。去年は塾、今年は学校で毎日お世話になっているお弁当。学校に行かなかった日も机の上にぽつんと置いてあるお弁当。何も聞こえない部屋で一人ぼっちで食べるより、クラスメイトと賑やかな教室で食べる方がずっと楽しいしおいしい。その事に私は気付くことができた。
 母親の力って、やはり世界で一番偉大だ。優しくて、厳しくて、それでも優しくて、何よりもかっこいいもの。恥ずかしくて言えないけどいつも本当にありがとう。親孝行できるように頑張りたいと思います。
 今日はエビフライか、それともコロッケ?ワクワクしながらお弁当のふたを開ける。
 「いただきまーす!」

INFORMATION

2024年度 特別賞
お弁当と新生活
丸山 まなみ(雲雀丘学園中学校1年)

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