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-よみもの-

2024年度 特別賞

新鮮な経験

 新鮮な大きな魚をさばくことは、私の人生にとって、新鮮な経験であった。私はこの春海のない長野県から愛媛県に引っ越した。魚をまじまじと見たことがなかったのである。
 春休みは、父が海釣りに連れていってくれて、キスやメバルを釣った。家でインターネットを見ながら、見様見真似でさばいてみた。キスを一尾開くのに三十分くらいかかった。でも、初めての経験だったが、難しいとは思わなかった。
 母と行く愛媛の市場の魚売り場は、鯛やアジなど地元の魚が並んでいて驚いた。どんな料理にチャレンジしようか、いつもわくわくした。
 夏休み、キャンプへ行った。宇和島の道の駅で、体長三十センチほどのカツオを見つけた。肉厚で、触るとソフトボールのような弾力があった。トレイを持ち上げると、ペットボトル二本分くらいの重みがあった。晩ご飯のメインはカツオに決定。
 キャンプ用の簡単なテーブルの上でさばいた。初めにゼイゴを取り、包丁の背でうろこを取った。カツオのうろこは硬くて分厚くてえらのところまでびっしりとついていて、裏表全部取るのに苦戦した。
 それから頭を切り落とした。手のひらくらいの大きさのある頭は、首の骨も硬く太いので、体重をかけないと切り落とせなかった。
 包丁のあごで腹と背に切り込みを入れるのだが、もにょもにょと弾力があり、皮が硬かったので苦戦した。アジとは比べ物にならないほどたくさんの内臓がびっしりと詰まっていた。
 あとは前にアジフライを作ったときと同じように、3 枚おろしにした。
 事前にインターネットで買っておいた藁に火をつけ、皮目から炙った。藁は全然足りなくて、あっというまに全部燃えつきてしまった。カツオのたたきは、外はこんがり、中が生なのが、今まで不思議だったけど、こうやって作るんだと分かった。
 道の駅で買ったポン酢をかけて食べたら、藁の香りが高く、甘酸っぱさがはんごうで炊いたご飯によく合って、おいしかった。苦労した甲斐があった。
 実は、長野県から引っ越ししてきて、友達や飯田焼肉が恋しくてずっとホームシックになっていた。でも、カツオをさばけるようになった今では、ここが私のホームと言えるようになってきた気がする。

INFORMATION

2024年度 特別賞
新鮮な経験
唐木 咲智(松山市立余土中学校1年)

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