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-よみもの-

2025年度 特別賞

母が作るお弁当

 毎日、朝練に行くためにまだ外が暗い時間に起きるけれど、いつも一足先にキッチンからは明かりが漏れている。母は五時前に起きて、父、姉、そして私の家族全員分のお弁当を作ってくれているのだ。卵焼きの甘さも野菜の彩りも、塩分の加減までも全部私のためを想って考えてくれている。それなのに、母が「めんどくさい」と言ったのを一度も聞いたことがない。いつのまにか私はこの環境が当たり前だと思い込んでいた。
 私が毎日朝練に行っているのに、全く来ない同輩に「なんで来ないの?」と聞いてしまった。正直、朝練に来ないのは「やる気がないからだ」と決めつけて、心のどこかでいら立っていた。でも、その子の返事は想像もしていないものだった。「うち、家から学校まで遠いし、お母さんもお父さんも毎日仕事で朝早くから働いてるんだ。だから、“お弁当をもっと早く起きて作って”なんて言えないし、実は朝ごはんもいつも自分で用意してる。」その言葉を聞いた瞬間、その言葉が胸に深く刺さった。私は何も知らずに「来ない理由はやる気の問題だ」と勝手に思い込んでいた。私は自分の環境が誰にとっても同じではないことを考えていなかった。朝起きればお弁当があって、朝ごはんが用意されている。私の普通はその子にとって全然普通ではなかった。
 次の日、また起きると母がいつも通りお弁当を嫌な顔せず作っていた。その静かな光景を見ただけで心が痛くなった。母が私のために積み重ねてきた毎朝の努力を、私はどれほど分かっていただろう。
 これをきっかけに、私は母のお弁当のありがたみを思い知り、自分で作ってみようと決めた。実際にやってみると栄養バランスを考えるのは想像以上に難しい。どの食材にどんな栄養があるのか分からず、色のバランスも味付けを調えるのも、こんなに大変だったんだと実感した。母の偉大さが身に染みた。毎日家族のことを想ってお弁当を作ってくれている母が今まで以上に尊く思えた。
 “当たり前”は本当は誰にとっても同じじゃない。だからこそ、これからは自分の環境に感謝し、他人の事情もちゃんと想像できる人でいたいと思う。感謝の言葉は思っているだけでは伝わらないので行動で示そうと思う。お弁当のふたを開けたときのあたたかさは母の優しさと努力の証ということを忘れないようにしたいと思う。

INFORMATION

2025年度 特別賞
母が作るお弁当
佐藤 舞(東京都 晃華学園中学校3 年)

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