Readings

-よみもの-

2025年度 キッコーマン賞 中学生の部

祖父に送るお弁当

 夏が来ると、家族みんなで瀬戸内海に浮かぶ島に住む祖母の家に行く。今年も祖母の家を訪ねると真っ先に仏壇へ行き、手を合わせた。亡くなった祖父へ挨拶をするためだ。夕食を食べながら、リビングの椅子に目をやる。この椅子を見る度に、祖父と一緒に囲んだ夕食を思い出す。お刺身をつまみに美味しそうにビールを飲む様子が目に焼きついている。祖父は、私たちが遊びにくるのをいつも楽しみに待ってくれていた。
 ある日、台所で忙しそうにしていた祖母に「仏壇にごはんをお供えしてきて。」と頼まれた。炊き立てのごはんと水の入ったコップをお供えしながら、ふと祖父のためにお弁当を作るのはどうだろうと思った。私は、一度も祖父に料理を作ってあげたことがなかった。お盆に帰ってきた祖父に、私の作った弁当で疲れを癒してもらいたいと思った。そこで、夏の猛暑でもさっぱりと食べられるいなり寿司はどうだろうかと考えた。いなり寿司は祖父の好物でもあるのだ。揚げは祖父の好みの甘めの味つけで、焦がさないように弱火で煮る。酢飯には、紅生姜と白ゴマを入れて混ぜた。おかずは、祖母に聞きながら、祖父の好物を詰めることにした。親戚のおじさんが釣ってきてくれた新鮮な鯛と家庭菜園で育てた無農薬の青じそで唐揚げに。祖母の得意料理であり、祖父の好物でもある卵の肉巻きも忘れてはいけない。片栗粉をつけることで、お肉が剥がれるのを防止できる。味つけは生姜醤油でさっぱりと。他にも、オクラと枝豆和えやミニトマトなど、旬の野菜を使ったおかずで栄養もたっぷりだ。となりで昼食を作っていた祖母と、「トマトが大好きだったね。」「お刺身にはいつもたっぷりの醤油をつけて怒られていたね。」「ビ―ルが大好きだったから今でも仏壇に供えているよ。」と想い出話で盛り上がった。食べ物一つでこんなにも祖父のことを思い出すなんて不思議だ。食は想い出をつなぐ力があるのかもしれない。
 弁当箱に詰めたら、早速仏壇に供える。もちろんビールも。美味しく食べてもらえるだろうか。きっと美味しく食べてくれるはずだ。食べることは人を笑顔にする。それは作るのも同じだ。だれかのことを想いながら作るとより一層その力を感じた。

INFORMATION

2025年度 キッコーマン賞
祖父に送るお弁当
渡部 小夏(愛媛県 松山市立余土中学校2年 )

他の作品を読む

これも好きかも

共有

XLINE
おいしい記憶