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-よみもの-

2025年度 全日本中学校技術・家庭科研究会賞

手料理に込められた思い

 私が小学生だった頃から、私の家は共働きです。母が残業で帰宅が遅いのは当たり前、夜勤の多い父も週末であっても仕事で家を空けることがよくあります。物心がついた時にはそのような生活だったので、家族全員で食卓を囲んだ記憶は全くありません。しかし、私には絶対に忘れることのできない、ある日の食事の思い出があります。
 それは、私が小学校五年生の秋でした。父が夜勤で翌日の昼頃まで家を空ける日の夕方のことです。その日も帰宅が遅くなる予定の母のために、私ははじめて一人で料理をしました。作ったのは、給食の献立表の裏面にレシピが載っていた「和風のりサラダ」です。料理に関しては、これまで母の手伝いしかやったことがなかったため、いざ作るとなると玉ねぎのすりおろし方や大さじの分量など分からないことが多く、不安になりました。それでも、「お母さんに楽をしてほしい」、「弟にも喜んでもらいたい」という一心で、インターネットで調べながら一生懸命作りました。たった一品なのに一時間もかかりましたが、かろうじて完成させることができました。母が帰ってきたときにどのような反応をしてくれるかを想像しながら、期待して待っていました。
 そして母は七時頃に帰宅し、私が食事を作ったことを褒め、喜んでくれました。その後、母と弟と私の三人で食卓を囲みました。母も弟もおいしそうに沢山食べてくれました。サラダは簡単な料理であり、また母の作ってくれる料理には到底かないません。それでも、その日の食事の味、食卓の雰囲気、家族の笑顔や会話、その日の夕食の出来事全てが大切な思い出として今でも私の心に深く刻まれています。何気ない出来事で、今となっては私が食事を作ることは大して珍しいことではないので、家族はこの出来事をもう忘れてしまっているかもしれません。でも、私にとっては記念日なのです。
 この経験を通して、私は手料理の大切さを知りました。食事という行為において、一番大切なのは人の思いだと気付きました。味が良い料理だけが素晴らしいわけではないことを、家族が教えてくれたのです。
 あの日から四年程が経過し、今では家族全員で週に一度、食卓を囲む生活になりました。もしかしたら世間ではそれが当たり前のことかもしれません。でも、私はとてもうれしく思っています。

INFORMATION

2025年度 全日本中学校技術・家庭科研究会賞
手料理に込められた思い
清水 雪姫(東京都 晃華学園中学校3年 )

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