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-よみもの-

2025年度 文部科学大臣賞

愛情いっぱいの炊き込みご飯

 『また多く作りすぎたわ。おじいちゃんと二人じゃ余っちゃうんよ。食べてくれる?』玄関のドアを開けると、ニコニコした笑顔で、タオルの上に乗せた熱々のタッパーを差し出してくれるおばあちゃん。いっぱいに詰められているのは、しょうゆの焦げた香ばしい香りのする、美味しい炊き込みご飯!
 『熱いから気をつけてな。かりんちゃんの好きなおこげ、たくさん入れておいたよ。』いつもそう言っておばあちゃんが届けてくれる炊き込みご飯が、私は大好きでした。
 私が小学二年生の時、オーストラリアから大分県のある田舎町に移住することになりました。近くにお店やコンビニもなく、ご近所は隣の家のおじいちゃんとおばあちゃんの家のみ。静かな田舎に、久しぶりに子供がやって来たと、おじいちゃんとおばあちゃんはとても喜んでくれました。九十四歳のおじいちゃんと八十四歳のおばあちゃんは、とても仲良しな夫婦で、家庭菜園での野菜の作り方を教えてくれたり、たくさんお話をしてくれました。
 朝から日差しが眩しい夏の日も、吐く息が白くなる冬の日も、おじいちゃんの大好きな炊き込みご飯を作った朝は、私の家に届けてくれました。春はたけのこ、夏は枝豆、秋はしめじ、冬は大根。季節ごとに旬の野菜を取り入れたやさしい炊き込みご飯。私はいつも
 「今日は、たけのこかな、今日はさつまいもかな」と楽しみにしていたものでした。
 『おじいちゃんに作ったんやけど、多く作りすぎたわ。食べきれんから、朝ごはんに食べてな。』いつもの決まり文句に優しい笑顔で、温かいタッパーを手渡してくれるおばあちゃん。これからもずっと変わらないと思っていました。だけど、炊き込みご飯をお裾分けしてもらえるようになって3年経ったある日、おじいちゃんが亡くなってしまいました。あんなに元気だったおじいちゃんが突然亡くなってしまい、私は信じられませんでした。
 おばあちゃんは、その日から徐々に私の家に来なくなってしまいました。そしておばあちゃんは、ついに外にも出て来なくなってしまいました。そこで私はおばあちゃんを元気付けようと、いつもおばあちゃんが私にお裾分けしてくれていた、炊き込みご飯を作ってみることにしました。おじいちゃんが食べやすいようにと、具がとても小さく切ってあったのを思い出し、にんじんは、なるべく細かく刻みました。生の椎茸は石づきを切って、細く薄く、刻みました。ちくわとかまぼこも小さく刻んで、入れました。『おじいちゃんは、鶏肉より、ちくわやかまぼこの方が柔らかくて食べやすいから、喜ぶんよ。』おばあちゃんがそう言っていたのを思い出しました。甘口の醤油と、だしの素、みりんも入れました。だけど何回作っても、おばあちゃんが作ってくれたようにはいきませんでした。おばあちゃんがいつか言っていたのと同じ調味料使ってるのに、どうしてだろうと思い、私はおばあちゃんにレシピを聞いてみることにしました。すると、おばあちゃんは、『かりんちゃんには特別見せてあげるよ。』と言って、私に一冊のノートを渡してくれました。『役に立つといいけどねぇ。』おばあちゃんは、そう言って笑いました。
 ノートはたくさんの字で埋まっていました。紙のはじが、破れていたりして、おばあちゃんがこのノートを書いてから、何十年も経っているのがわかりました。何ページかめくって、やっと炊き込みご飯のページにたどり着きました。レシピは、前におばあちゃんが教えてくれた通りのものでした。そして、最後のページには、こうありました。 “料理を作る時は、必ず食べる人の笑顔を思い浮かべて楽しく愛情を込めて作ること。” この文を見た時、私は思わず泣き出しそうになりました。おばあちゃんはいつも愛情いっぱいにおじいちゃんや私たちのことを思ってあの炊き込みご飯を作ってくれていたんだと、気が付きました。私は、もう一度、炊き込みご飯を作ることに挑戦しました。おじいちゃんとおばあちゃんの笑顔を思い浮かべながら。そして、おばあちゃんのノートと、ほっかほかの出来立ての炊きこみご飯を、渡しに行きました。おばあちゃんは、すぐさま笑顔になって玄関先に座って、炊き込みご飯を食べてくれました。おばあちゃんは泣きながら「美味しい、美味しいよ、かりんちゃん」と言ってくれました。このとき初めて私は、ご飯を作るには気持ちを込めることが一番大事なのかもしれないなと思いました。おばあちゃんの炊き込みご飯が、あんなに美味しかったのは、愛情をいっぱい込めて作ってくれていたからだと思いました。
 私は、これからも、時々おばあちゃんに、炊き込みご飯を作ってあげたいと思っています。いっぱいの愛情を込めて。

INFORMATION

2025年度 文部科学大臣賞
愛情いっぱいの炊き込みご飯
吉田 かりん結愛(大分県 別府市立別府西中学校1年 )

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