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-よみもの-
「あなたのおいしい記憶」エッセー、作文コンテスト2017 エッセー部門優秀賞
おいしい記憶は太った記憶
あれは私が小学校6年生の時、父の仕事の関係で生まれも育ちも南米ブラジルだった私が、1ヶ月間だけ日本に帰国して日本の小学校に体験入学が出来ることになりました。当時は、日本とブラジル間は飛行機で30時間以上もかかり、3年に1度の一時帰国しかできず、日本は私にとって憧れの場所でした。日本のテレビ番組は日本人の経営するサンパウロ市内で1件だけのビデオ屋に借りに行き、半年遅れの歌番組やドラマを何度も繰り返し観ては喜んでいました。漫画雑誌は少年ジャンプと少年マガジンを父が本屋に頼んでおり、3ヶ月に一度船便で本屋に届く大量の漫画雑誌を持って帰って来る父が楽しみでした。その夜は家族5人全員、お通夜状態で読み漁りました・・。
そんな中、日本に帰れるなんて!それも日本の学校に体験入学できるなんて!弟2人のやっかみもそっちのけで、喜んで1人飛行機に乗り祖父母が居る東京に帰国しました。
1ヶ月の予定のはずが修学旅行にも参加したくて更に1ヶ月延長させてもらい結局2ヶ月日本の小学校に通いました。
2ヵ月後11歳の私がブラジルの空港に降りた時、迎えに来た両親は最初、私を見て絶句!そう、日本の食べ物がおいしくて、小学生の私は2ヶ月で10kgも太って帰国したのです。
実の親が娘を見ても誰だか分からないぐらい太って帰り、その時に「股ずれ」という言葉を覚えました。小学校6年生の夏でした。
初孫ということもあり、祖母はとても可愛がってくれました。
毎日学校から帰ると、必ず大好きな不二家のケーキがあり、祖母と一日学校であった話をしながらおやつの時間を楽しみました。
朝は炊き立ての白いご飯にお醤油をちょっとかけただけの卵かけご飯・・生まれて初めて味わう至福の美味しさ!お昼は給食!これまたおいしい!おかわり!おかわり!
白いご飯のおいしいこと!新ジャガを茹でて塩をかけただけなのに何このジャガイモのおいしさは!日本の野菜の美味しさ!嫌いだったトマトがこんなに甘くて美味しいとは知らなかった!おいしい!おいしい!何を食べても日本の食べ物は何でも美味しかったのです!
ブラジルの空港に降りて親の絶句した顔を見るまで、自分がそんなに太ったなんて気が付きませんでした!祖母と暮らしていた時に腿の内側が痛くなり祖母に聞いた時に、「それは股ずれよ」と教えてくれましたがそれが太った事でなるとは・・その時は教えてくれなかったのでただただおいしい!おいしい!と出されるものは全て完食し続けました。
後になって祖母に聞くと、遠く離れて暮らしている初孫との生活が楽しく、毎日おいしい!おいしい!と何でも食べる孫娘を見ているだけで楽しかったし幸せな気持ちになれたわ・・と言われました。
徐々に体重も元に戻り、育ち盛りでもあったので背も伸びると同時に体型も元に戻りましたが、あの「おいしい記憶」は太った記憶と一緒に、大好きな祖母の優しさに包まれた私の宝物です。
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おいしい記憶は太った記憶
作・社員
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