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-よみもの-

「あなたのおいしい記憶」エッセー、作文コンテスト2020 エッセー部門優秀賞

丸くて甘くて優しい『ぼたもち』

親戚が集うお彼岸の日、叔母は朝早くから大きな鍋で小豆を煮る。コトコト弱火で小豆が柔らかくなるまで時間をかけて煮る。小豆が煮えたら大量の砂糖を入れ、木べらで混ぜ、汗だくになりながら粒あんに仕上げていく。隠し味に塩を一掴み。小豆の量が多いので一つまみではなく一掴みだ。粒あんが出来たら真ん丸に握られたもち米に、これでもかというほど粒あんを乗せて重箱に詰めていく。皆が叔母の『ぼたもち』を楽しみにしているので、多いときには100個ほど作ることもあったそう。
私も子供の頃から叔母の『ぼたもち』が大好きだった。叔母の作ってくれた『ぼたもち』はとにかく大きい。一個食べればお腹いっぱいになってしまうほどの大きさで、よく目にする普通の『おはぎ』とは別物といっていいほどインパクトがある。

私は19歳のとき大病をした。手術をした3日後に叔母がお見舞いに来てくれたのだが、術後で寝たきりの私に何と「おばちゃんのぼたもち食べて元気出せな」 といつものように重箱を目の前に差し出した。「おばちゃん、何考えてるの?手術したばっかりで、ぼたもちなんか食べられる訳ないじゃん!私はまだおかゆさえ食べられないんだよ!」私は思わず声を荒げてしまった。
叔母はびっくりした顔で「ごめんな、ごめんな、そうだよな、気づかなくてごめんな」と何度も謝る。叔母の無神経さと自分の情けなさで涙が溢れる。泣いている私に「可哀想になぁ、おばちゃんが悪かったよ、ごめんな、ごめんな」と何度も謝りながら病室を出ていった。

それから2週間ほど経った日、再び叔母が重箱を抱えて病室に入ってきた。「もう普通にご飯食べられるって聞いたから作ってきたよ、奈穂美に元気になってほしくてな、いっぱい食べろな」
そうだった。叔母はそういう人だった。私の笑顔が見れると信じて私の大好物の『ぼたもち』を持ってきたのだ。叔母にとっては重箱にぎゅうぎゅうに詰まった『ぼたもち』を見ると喜んだ子供のころの私のままなのだろう。私が入院している病院まで2時間近くかかるのに、朝から作るのは大変だったでしょう?叔母の気持ちが有り難くて嬉しくて、泣きながら病室で『ぼたもち』を食べた。
「おばちゃん、この前はごめんね」私がそう言うと叔母は「美味いか?いっぱい食べろな」と笑顔だった。

その後もずっと変わらずに『ぼたもち』を作り続けてくれた叔母。
母になった私と娘に、いっぱい食べろなーと目の前に重箱を差し出す。
かつての私のように、わー!すごーい!と美味しそうに頬張る娘。
叔母は、奈穂美にそっくりだと笑っていた。

大量の砂糖や一掴みの塩の他に叔母の愛情という秘伝の隠し味の入った『ぼたもち』

大きくて真ん丸で甘くて優しくて、あの『ぼたもち』は大好きな叔母そのものだった。
叔母はもう他界しているが、叔母の深い愛情と優しさは私の心にしっかりと刻まれている。

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「あなたのおいしい記憶」エッセー、作文コンテスト2020 エッセー部門優秀賞
丸くて甘くて優しい『ぼたもち』
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