海外研究 牛尼

海外研究
おいしさを客観的に評価する
手法の開発と応用に向けた取り組み
牛尼 翔太
研究開発本部
2014年入社
農学生命科学研究科 応用生命科学専攻修了

心理学的・生理学的・行動学的手法を用いたおいしさ評価

オランダにあるKikkoman Europe R&D laboratory では、食品のおいしさを客観的にとらえることを目的として、食品そのものだけでなく、「食べる人」にも着目したおいしさ評価を進めています。その中で私は、お客さまがどのように食品を選び、どんな時においしさを感じているのかという「おいしさの客観的な評価手法」の最先端を取り入れるために、欧州の消費者を対象に研究を行っています。例えば、値段やブランドのように、食品に付随する情報によって味や香りの感じ方やおよび嗜好がどのように変化するかを調べたり、食品を味わったりブランドを見せた時に生じる心拍数などの身体的変化を計測するなど、心理学的・生理学的・行動学的手法などさまざまな角度からお客さまが感じるおいしさを評価しています。研究業務から得られた結果は、社内関係部署に共有し、欧州をはじめとする営業活動のマーケティング活動につなげたり、学術的に価値があるものは国際学会で発表したりもします。
国をまたいで人の深層心理を知ることはとても難しく、オランダ人を含め欧州人の考え方や価値観、行動原理は日本人とは大きく異なります。例えば、日本において菓子折りは丁寧に何重にも包装されていると非常に礼儀正しいイメージですが、環境意識が高いオランダ人にとっては、過剰包装では?環境に良くないのでは?と敬遠されたりなど、自身の常識にとらわれずに物事を俯瞰的に考えることの大切さを日々痛感しています。この研究を通して、食品そのものからだけでなく、お客さまが感じるおいしさをとらえ、「味」だけでなく「価値」として伝えることができれば、お客さまが求めるおいしさの提供を実現することが可能になり、ひいては世界の食を豊かにすることができると信じています。

世界中のお客さまに「おいしさ」を提供する

オランダに赴任して言語の壁以上に実感したのは、日常のさまざまな場面で感じる仕事に対する取り組み方や食に対する考え方の違いでした。基礎となる価値観が異なる環境に身を置くということ自体が私にとっては大きな挑戦でしたが、オランダ語を学び同僚や友人とのコミュニケーションを通して考え方を理解することで周りに溶け込めるように努めました。オランダでの円滑な人間関係を構築することで、さまざまな研究成果を得ることができたと自負しています。
また、消費者研究にするにあたり食文化や価値観の違いを、身をもって知れたことは貴重な経験です。例えば、食品成分や環境に対して意識の高いヨーロッパでは、添加物が少ない商品や環境に配慮した商品しか選ばないお客さまも少なくありません。従って、このような価値観のお客さまに対しては、日本人の感覚から価値を伝えるのでなく、現地のお客さまが求める価値に合わせた発信が求められます。人々が持つ価値観の違いに目を向けられると、どの側面から「おいしさの価値」を訴求すると良いかが見えてきます。そして、食文化や価値観を多面的にとらえられることが、しょうゆの世界展開においても、海外の人へしょうゆの魅力などの価値を正しく伝えることに結びつくのだと思います。今後も実際に肌で感じる実体験を重ね、お客さまが求める「おいしさ」の価値提供に結びつけることで、世界中のお客さまのおいしい記憶の普及に貢献したいと考えています。

Questions

入社動機

私は生物に対する興味が強く、博士課程までは生物を専攻していました。そうした中で、生物にとって食べることは基本であると意識するようになり、食に関する仕事に意識が向いていきました。世界の食に貢献したいと考えた時に、日本から世界に広がっているしょうゆに興味を持ち、なかでも世界中の異なる環境下で同じしょうゆを生産し提供できるキッコーマンの醸造技術力に魅力を感じました。扱う商品も幅広く、仕事をする中で幅広い知識を身につけながら、多様な経験を積むことができると感じ入社を決めました。

一日の過ごし方

オランダでは大学との共同研究を進めていたので、出勤先は日によってオフィスか大学のどちらか。いずれも到着後にメールなどを確認したのち、研究作業、研究作業の内容や手法の打ち合わせなどを始めます。
共同研究先の研究者とのディスカッションも日程の一つなのですが、これが発見の連続なのです。例えば、日本人にとってお米は「炊く」ものですが、オランダ人はお米を「煮る」といい、表現の違いに驚きました。話の内容はすぐに報告書にまとめ、次の研究へのアイデアやビジネスへの応用に向けた資料にします。

この仕事に向く人とは?

新しい環境に飛び込んで、失敗を恐れず前に進める人だと思います。私もオランダに赴任した当初は、とても苦労しました。言葉の違いはもちろん、この研究に対する知識もほとんどなかったので、何をどう伝えたら良いのかが分かりませんでした。伝えたいことをメモにして見せることからはじめ、ある頃から言葉だけでテンポよくコミュニケーションが取れるようになり、その時は成長を実感しました。また、海外を対象とする仕事なので、意見をはっきりといえることも重要です。ビジョンを持ち、前進していける人が向いています。

メッセージ

就職活動は自分自身と向き合う機会になると思います。その中で、「今までやってきたこと・今できること」ではなく、「やりたいこと」を考えてみてください。会社に入れば学生時代に学んだ分野と異なる業務に就くこともあります。
私も博士課程までは生物を専攻していたので、基盤技術の開発や機能性食品などの基礎研究を担当するのだと思って入社しました。